「同僚の家族にご不幸があったからお布施を出せ」¥1000を出した後でT鍋さんは解雇を言い渡されたそうです。私はお金を集めた係長に抗議をしました。「そんな事をペイペイの俺に言われたって困る。俺だって上からの命令でやったんだ!」「同じご不幸があってもお布施を貰える人と貰えない人がいるのは何故か?」私が嘗てした質問にこの係長は「○○のお祖母さんが亡くなった事なんて知らなかった」と答えました。「何の為に忌引き休暇の届けを出す時に係長の判を押す欄があるのですか?それに平々と書いてペイペイと読むのだから貴方には当てはまりません」係長は私の質問には答えずに「五月蝿い女だな?」と怒鳴りつけただけでした。組合にも問題にしようと働きかけたけれども「そんな事してこっちまでクビになったら事だからな?」「¥1000くらいいいじゃないですか?」と言う始末です。暫くして街で再会したT鍋さんは痩せこけていました。「あの時の¥1000があれば、一食か二食分にはなったのになあ」こんなご時勢だから仕事なんて簡単に見つかる訳がありません。T鍋さんがそういう風に思うのは当然でしょう!
同じ様に、今日で解雇になると分かっている人から「お布施を盗って来い!」と命じられた時に、はじめ君は悩んだ末に自分で¥1000を出したそうです。そういう子です。
はじめ君は社内の焼肉大会では「肉を焼く」係を押し付けられていました。私は派遣社員でしたが、当時の上司は私のキャラを認めていましたから行事の参加を許されていました。新人が入っても嫌がらせをして皆、辞めさせてしまう男性社員を私がある方法を使って屈服させてからは、私はなくてはならない存在として位置ずけられていたのです。其処では私は怪物ちゃんと呼ばれていました。傲慢不遜な男性社員が怪物ちゃんにだけは敬語を使ったのです。「良かったな、はじめ!今日は怪物ちゃんと一緒だから肉を焼く係から逃れられるぞ!」上司がそう言ったのは「今日ははじめには肉を焼かせるな」という意味です。そういう配慮が出来る人でした。はじめ君はその席で初恋の子の父親が人を殺して逮捕されたという話をしました。今まで、事件そのモノを知っている人がいなかったそうですが、私は犯人の名前を上げて見せました。「人生で初めて
尊敬する師に巡りあった」はじめ君は私に向かって言いました。はじめ君とは替え歌で社歌を作ったり、社内の人達をモデルにいろはかるたを作ったり、ただそれだけの間柄です。
はじめ君より私は大分、大きいし、年も上です。それとはじめ君の理想のタイプは黒髪で小柄で大人しい顔立ちの子だそうです。つまりは私とはまったく正反対という事です。私は過去の経験から男の人に対して恋愛という感情を持った事は殆どありません。でもはじめ君と出会ってから初めて恋愛感情の伴わない男女の友情もある事を知りました。だから友達として一点だけ警告しました。「髪や爪を染めていない、大人そうに見える子がいい子とは限らないのよ!」
お父さんの事件が報道されてしまったので、はじめ君の初恋の人は皆に挨拶をする事もなく、転校して行ったそうです。荷物は小母さんが取りに来ました。その後の周囲の大人達の反応を思い出せば、私が受けて来た仕打ちも「絶対にありえる」事だと言ってくれました。融通が利かず、そんな役割を押し付けられるはじめ君はボロボロになってその会社を退職しました。それからわずか数年の間に色々な会社に入ったけれど、何処でも与えられる役目は同じでうまく行かなかった様です。今は仕事の関係でみそかつの町にいますが、「新しい会社に友達が出来なくてで寂しいから会いに来てくれ」と言われましたが、彼との休みと私の病院の診療日が重なってどうしてもうまく休みの調整が取れません。
遠き友 違う桜を 眺めども
同じこの時 花見をなさん
昨日、携帯からこのメールを送ったけれど、その後で電話を失くしてしまったので返歌があったかどうかは分かりません。
この間、以前いた派遣会社から電話がありました。「親会社から貴女を指名して来た」と言われたけれども私にはもうその体力はありません。
これを書いた時点でははじめ君の暮らす町の桜もまだだったのですが、もう散りかけている様です。その後、携帯は見つかりました。色々、野暮用があってすぐには旅立てませんが、何処へ行くかはまだ決めかねています。
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「寂しいから会いに来てくれ」
これは間違っていると思うよ。
寂しくて会いたいならば、自分が行くべきだ。